わかったつもりでいたけれどほんとうはわからなかったこと。

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「正解を出すこと」より「仮説を書き換えながら前に進むこと」身体を通して時代を読む 甲野善紀 内田樹著

 

身体を通して時代を読む―武術的立場 (文春文庫)

 

武術研究科の甲野義紀さんと、思想家であり武道家である内田樹さんの対談本。

 政治、経済、教育にいたるまで、ついつい頭でっかちに考えてしまいがちな様々なトピックを、二人の武道家が「武術的な、身体的な視点」から論じている。‥‥と言ってもなんだか抽象的なので「武術的、身体的な思考」がわかりやすく顕れている二人の会話がこちら↓
 
甲野さん「魚の群れというのは水族館で見ていてもわかりますが一斉に泳ぐ方向が変わりますよね。哺乳類のようにリーダーが曲がってその後をみんなが曲がるという感じではないのです。みんな一斉にザッザッと変わるのです。身体も、普通はまず、足で踏ん張ってそこからグーンと腰をひねって、次に上半身をしならせて全体を鞭のように使って向きを変えますが、そうではなくて、ふわっと身体を空中に浮かした状態で、いきなりパッパッと使って変えるのです(中略)同時並列処理というのはコンピュータの用語ですが、いくつものことを同時にやると、当然効率が良いわけです」
 
内田さん「僕は甲野先生の小魚の比喩がとても好きで、実際に水族館で鰯の群れが一斉にパッと変わるのを見て、「あ、ほんとうだ」と感心してたんです。でも、中に変わらないヤツもいるんですね(笑)。九十九パーセントの群れがある方向に同時に変わった時に、反対の方向に行ってしまうのが必ずいるんですよ。でも、そういう協調性のない個体が一定数存在するということは、システムのセキュリティにとってすごくいいことだと思うんです。だって鰯の群れが向かう先に鯨が口を開けて待っているとか、漁船の網が待っているということだってありうるわけですから。」
 
  小魚の群れの話➡武道の技➡システムの防御性・・・と、一見異なるコンテンツ同士の関係性を見つけて、どんどん広げていく過程は、読んでいてとてもワクワクする。
 
 人を引きつけたり、楽しませることができる話や文章とは、
 
 「私は⚪︎⚪︎して、××したところ、△△という結果になりました」という既に確定された過去を語るのではなく、
 
「今まさに身体で感じている変化、語り部の本人すら先に何が待っているのか、どこに向かっているのか検討もつかないような、未来へのプロセス真っ最中のような語り口」なんだろう。
 
就職活動の選考において、グループディスカッションというものがあるけれど、僕はあれがどうも苦手だ。なぜかといえば必ず司会進行役がいて、議論を一つの結論にまとめようという力が常に働いているから。一つの模範解答が暗黙のうちに用意されていることが大前提で、時間内にそこに辿り着くための意見以外は、無用なものとして黙されるという恐ろしい場である(司会役は面接官に向けて結果を発表しなきゃならないので、このバイアスは驚くほど最大化される)
 
また、漫画家の井上雄彦さんは、漫画のネーム(漫画一話の流れをラフ画であらわした、映画でいう絵コンテのようなもの)にとても長く時間をかけ、ギリギリまで粘るらしい。これも完成像を早い段階で確定することで得られる安心感よりも、新鮮な表現が出てくるまで、時間が許す限り探りたいという姿勢のあらわれなのだと思う。
 
ただそうなると、「答えなんてそんな急いで出さなくていっか!」という話になりがちなので、内田さんは、甲野さんの武術の探求方法について次のように言っている。

「僕が感動するのは、仮説を立てた後に、一回ご自分できちんと術理を論理化されるという点なんです。だって、これまでの経緯から考えれば、その術理が遠からず放棄されるとことはほぼ確実なんですから。それにもかかわらず、先生は暫定的な仮説だからという理由で軽んじるということがない。そこがすごいと思うんです。もしかすると半年後にはもう使わなくなるかもしれない技にもちゃんと名前をつけるでしょう」

 

 つまり、自分が疑問に思った題にたいして、いきなり完ペキなファイナルアンサー(古い)を求めるのではなくその都度その都度、自分なりの小さな回答=「仮説」を立て、その「仮説」を手掛かりにして歩きながら、変わっていく風景からヒントを得て、「この仮説はそろそろ通用しなくなってきたな」と感じたら、その仮説を一度壊し、再び新たな「仮説」を立てる‥‥それを繰り返してちょっとづつ前に進めば、いつか遥か遠くに待っているかもしれない「答え」にたどり着けるかもしれないということなのだ(あくまで「かもしれない」である)

この「仮説の創造と破壊」をエンドレスで楽しんで続けられる人こそが、ずっと遠くの地平に行けるのではないかなと思う。

 

ミスターチルドレンの「旅人」という古い曲で、こんな歌詞があった。

「どうせだめならやってみよう。正当化せず答えを探そう」

情報ばかり溢れていて、やる前から答えがわかってしまう世の中だからこそ、行動してなんぼなんだろうな。